伊吹 拓

2013-05-16
伊吹拓展を振り返って

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まず、この伊吹拓展はttk最初の展覧会であること。今後ttkが認知されていくにつれて、この展覧会によってギャラリーのイメージの半分は確実に形成されていく、ただの1回目では止まらない非常に重要なものでした。そして、伊吹さんにとっても、本格的に当展の出品作品を制作し始めた時期にギャラリー空間が出来上がっていないという(最終的には作品搬入の当日に引き渡し完了)、あくまでもギャラリー空間の完成予想のイメージのみで作品の構成を考えなければならなかった稀有な状況の中で完成した展覧会でした。

伊吹さんにとっては、こういう特殊な環境の中で、自分自身のこれまで積み重ねてきた表現から次への新たな展開を見せようと意気込んでいただき、それが明確な形となって当展の展示構成に現れたと、私自身強く自負しております。これまで感性による世界観を抽象絵画というフォーマットに描き続けてきた伊吹さんでしたが、今回は特にホワイトキューブのスペースに並んだ3点の横長の大作と、メインイメージになった100号スクエアの作品に、次の展開を示唆させる表現がはっきりと見られました。

それは明確な意識を持って画面上に刻まれた強い筆致と、画面に押し込められた数多くの要素たち。筆致の強弱、多様な色彩、かたち、更には表面上のマチエールと、これまでの伊吹さんの作品には無かった、膨大な情報量としてのディティールでもって画面上を埋め尽くすことを意図した作品群が提示されました。

これら当展のメインというべき4作品の特徴は、これまでの伊吹さんの作品に頻繁に見られた心象的とされるイメージや空間的表現ともいえる描写から、いかに絵画、画面というプリミティブな概念に向き合っていくかという、彼の強い意志が垣間見られるものでした。解釈によっては、これまでの鑑賞者が介入する余地の大きかった画面から、自分自身の世界へ没入していくような様もあり、時には鑑賞者をも突き放すかのような冷たさも感じられました。更に、彼の自発的なストロークや数々のディティールを過剰なほどに画面上に入れ込むことによって、逆にオールオーヴァーなイメージは影を潜めて、限られた画面上でいかに自らの多様な要素をコンポジションしていくかが、伊吹さんの今回の大きな目的であり成果だったように思えます。

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そのプロセスが概念的に伝わるという点で効果的だったものが、奥の和室にあったワーク・イン・プログレスの作品でした。6畳の和室に仰向けに置いた巨大なキャンバスに、最終的に会期中4回の重ね塗りをおこない、実際の作品が出来上がるプロセスを垣間見せるものでした。しかしながら、この試みは公開制作としてはおこなわず、お客さんが帰られた夜に加筆はおこなわれ、油の匂いが充満し表面が全く乾いていないみずみずしい画面が、翌日に突然現れるという状況を幾度と見せることになりました。行為としてのプロセスが決して具体的な様では見られない、あくまでも鑑賞者の想像の中で新しい画面が塗り重ねられることによって、鑑賞者の関心はより画面の方に集中し、油が乾いていく時間経過の中で細部が徐々に形成されていく感覚にも、絵画としての純粋なプロセスが強調されていくものとなりました。更にこの作品には、伊吹さんがこの1ヶ月半の会期の中で此花の町の雰囲気に触れ、その印象が自然に作品へと反映されていった、サイトスペシフィックな要素が予想以上に強かったこともここに書き加えておきます。

改めましてこの伊吹展では、伊吹さん自身の「絵画」そのものへの意識の強まりと共に、ttkとしましても、現代の絵画における本質というものに、私自身を含めて多くの方々への関心の誘導とその必要性を訴え、それらが明確に打ち出せた内容となったと思います。当展のテキストにも書かせていただきましたが、「あえて絵画そのものの概念や本質についてじっくりと考える機会になれば」の通りに、お越しいただいた方々からもそのような機会となったとの声を多数いただきました。ホワイトキューブと和室、二つの展示室の対比から、画面上に具体的なイメージが存在しない本来の「抽象絵画」としての存在をより一層強調させることで、純粋な絵画性を多くの方々に強く印象付けることができ、伊吹さんの従来からのイメージの転換にも、そしてttkのブランドイメージの創出にも意義のある展覧会であったと思います。

最後になりましたが、ttk最初の展覧会として、大変多くのみなさまにご来廊いただきましたこと、心より感謝申し上げます。そして、これからの伊吹さんの更なる展開にもぜひご期待ください。

 

2013-04-11
「伊吹拓展」会期折り返しです!

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先月15日のオープン以来、続々と多くのみなさんにギャラリーへお越しいただき、まことにありがとうございます。ttkの売りの一つである、展覧会の会期1ヵ月半もちょうど折り返しを迎えようとしています。1ヵ月半という会期に設定している理由は、お見逃しの無いようにということ、そして展示や作品、作家の世界観をみなさんの心により深く刻んでもらうために、会期中に複数回ご覧いただきたいという狙いがあります。

まだお越しになられていない方も、すでに各所で知られていると思いますが、ttkには2つの展示室があります。約37㎡のホワイトキューブの展示室には、この規模には珍しい約10mの長いまっ平らな壁面があります。そして、私のデスクの後ろをくぐると、まさに此花梅香地区の生活単位とも言える、6畳一間の和室があります。まさに対極にあると言える二つの展示空間を、自らの表現のためにいかに効果的に使いこなすか。これは、今後ここで展覧会を作っていく作家やディレクターにとっては高いハードルであり、展示をすること企画をすることにおいては大きな醍醐味だと思います。

そんなttkの空間で最初の展示をおこなった伊吹さん。ttkのオープニングを飾るタイミングが彼の様々な要素と交じり合って、明らかにこれまでの作風からの新たな展開を垣間見られる内容となっております。これからギャラリーにお越しいただく方には、ここで話すとネタばれになってしまうのでほどほどにしておきますが(笑)、特にホワイトキューブの展示室の10mの壁面に並ぶ大作たちは見ごたえ十分です!階段を上がり終えた瞬間に、この荘厳な大画面がみなさまを出迎えてくれます。伊吹さんの「絵画」そのものに対する意識の強まりを、ここでしっかりと感じていただければと思います。

そして、奥にある和室の展示室にあるWork in Progressの作品も、昨日2度目の加筆が加えられて、新たな画面に塗り替えられました。2週間前の加筆よりもかなり大規模なものとなって、前回前々回の画面の面影は全く見られないほどになっております。そして、加筆の度に起きることですが、油絵具の匂いはスペース全体に充満しております(笑)。

この作品の見どころは、絶対に日中だと私は思います。南向きのベランダの窓から差し込む陽光が、伊吹さんのみずみずしい画面に触れると…。この作品が提示する絵画としての意識は、ある意味ホワイトキューブに展示している作品とは対照的なものです。

自発的かつ積極的なアプローチと、他者や偶然性に委ねるアプローチ。この絵画そのものに対する両極の概念の「ただなか」にいる感覚を、ぜひ当展の展示空間の中で直接触れていただきたく思います。会期もあと4週間余り、展示空間に変化が生じる余地がまだ随所にあります。引き続きみなさんのお越しをお待ちしております!

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2013-03-27
「このはなのただなか」 伊吹 拓

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ここはどこで、あなたはどうして絵の前に立ち、なにがココロに映る。

2013年の春、此花で絵を展示し、たくさんの人に観てもらっています

中途半端とはまた違う、易さと難さの間をさまよう土地。

でもそこに集う人たちは自然と笑顔で、自分に与えられた長い時間の中の“ただなか”に

チャンスを感じている。

the three konohanaが閉まる時間になると、今日は今からどう過ごそうか?

もうふたつの銭湯で疲れをとるどころか意気を溜め込み、OTON△RIでおいしいゴハンを食べる。

おいしいのはゴハンだけじゃなく、ひとがおいしい。

これから花が咲き、陽気に包まれる普段どおりの春が広がる。たまには絵を描くこともあるけれど、

ここに流れる普段どおりの春をめいっぱい楽しむことが楽しみ。

 

 

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2013-03-22
無事オープンいたしました。

FBやツイッターではオープン後も情報を随時発信しておりましたが、オープン直後の慣れない諸作業に加えて、翌日のKAMO開催や週明けからのなんばパークスの企画の設営とオープンでなかなか時間が取れず、こちらのVOICEの活用が早速遅れ気味になっておりました(苦笑)。

改めまして、先週金曜日のオープニングパーティーには、地元此花の方々や美術関係者の方々を中心に、200人は超えているのではというほどの非常に多くの方々にお祝いいただきまして、本当にありがとうございました。また当日うかがえないということで、たくさんのメッセージやお花・お酒などを送っていただいた方々にも、お礼を申し上げます。

伊吹展も2週目に入りました。オープンの3日間はお客さまがひっきりなしにお越しいただきましたが、次週に入った今日は比較的ゆったりした時間が流れています。むしろ私の思いとしましては、ギャラリースペースの特性(大きく二つの展示スペースがあること)や、1企画1ヵ月半のスパンで設定していることもありまして、作品および展示にじっくりと向き合いながら楽しんでもらえる環境にしたいのです。まだまだこれから初めてお越しになられるという方も多いので、今の段階でのギャラリースペースのネタ晴らしは、このくらいにしておきたいと思います(笑)。

今回の展示には、伊吹さんのWork in Progressの作品もございます(会期中に作品が進捗して制作されて、制作途中の作品の様子をご覧いただけます)。ですので、GWまでの会期の間にオープニングにお越しになられた方はぜひもう一度、そしてまだお越しになられていない方も、最低2度はぜひお越しいただきたいと思っております。

今後こちらのVOICEには、オープニング展を飾った伊吹さんの声はもちろんのこと、今回のギャラリーオープンに多大なご尽力をいただいたプロフェッショナルな方々から、昨日から伊吹展と同時開催中の「ボーダーレスのゆくえ」展のお話など、いますぐにでもご紹介したい内容がたくさんあります。ということで、しばらくこちらの更新が続きますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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2013-03-15
Konohana’s Eye #1 伊吹 拓 展「”ただなか” にいること」

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・伊吹拓展を振り返って

・ttk開廊および伊吹拓展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介

・伊吹拓展「”ただなか”にいること」展示風景

 

Konohana’s Eye #1
伊吹 拓 展「”ただなか” にいること」

2013年3月15日(金)~5月5日(日)

開廊時間:12:00~19:00 休廊日:毎週月曜~水曜、3月21日(木)
会場:the three konohana

the three konohana 開廊パーティー/伊吹拓展 オープニングパーティー:
3月15日(金)17時~22時

* * *

the three konohanaのオープニングは、関西を拠点に精力的に活動を続けている絵画作家、伊吹 拓(IBUKI Taku, b.1977)の個展を開催いたします。

近年の抽象絵画の動向には、従来の美術史の文脈の継承よりも、現代社会や日常の生活にある具体的な要素を取り入れて、再構成するものが目立っているように思えます。二次元上の造形という観点から、デジタルの概念が市民権を得たことによるレイヤー的な表現。個々人の精神の不安定さの蔓延が着想となっている超感覚的とされる表現。積極的な思考の放棄による単純な行為の反復・蓄積といったものが挙げられます。これらの背景には、従来まで絵画のアイデンティティであったはずの二次元としての画面や造形の概念が、副次的なものとして扱われるようになったことも要因としてあります。モダニズムが終焉して以降、あらためて絵画そのものの概念の行き詰まりを感じさせるとともに、それを再追究する余地はまだ残っていないだろうかという思いに駆られます。

伊吹は、自らの存在と内面の世界を深く洞察し、それらを発露させるための抽象絵画に、学生時代から一貫して取り組んでいます。なかでも、彼の特徴的な表現手法とされているものが、絵具による「積層」を通じて随所に発生する「垂れ」や「滲み」です。彼にとって筆や刷毛によるストロークと等価とするこれらの手法には、彼らしい感覚が横たわっています。それは「委ねる」ことです。

そこには、アメリカ抽象表現主義以来常に語られてきた、偶然性や自然的なものによる平面絵画内への関与を見ることができます。彼はこの他力としての要素を作品に積極的に取り入れ、更には自己にも接触させることによる流動的な変 化を強く意識しています。また、近年彼が取り組んでいる屋外での展示でも、日々の時間や天気における光の変化によって、常に同じ視覚認識で作品を鑑賞できない過酷な環境に作品を置きながら、伊吹は絵画そのものへ客観的なまなざしを投げ続けてきました。

当展は、これまでの伊吹の一貫した制作意 識から次の段階を強く示唆させる、新作のタブローのみで構成いたします。目に見えて力強さを帯びたストロークと色彩が画面上に刻み込まれ、これまでの調和感が強かった印象から、まるでその静寂を破るような画面が現れます。これまで「委ねる」という意識の下で自然に寄り添ってきた感覚から、積極的な行為とし ての「描く」ことへの渇望が強まったこと、それが彼の作品に変化をもたらしているように思います。画面上には主観対客観の単なる二項対立に留まらない、一 種の不均衡さが作品全体に漂っています。そんな複雑に入り組んだ両者の関係性が、画面上の情景に無数のバリエーションを生み出し、それらの中から彼は自らの手に委ねながら選び、掴み取っていく作業を積み重ねています。

感情という私的な概念はあくまでも画面の一部分に留まり、明確な行為としての筆致と色彩が、視覚的にも概念的にも画面上に明快なコントラストを生み出しています。それは絵画という概念の中に、客観性を備えた彼の主観の現れと考え ることができます。他力に依存する感情よりも自意識を強めた「描く」行為を通じて、絵画への客観的なまなざしを向けること。当展において伊吹は、これまでの作家活動の中で見い出したあらゆる要素を全て画面上に撒き散らし、自らの絵画を構成する物事や概念、価値観、それらの境界線などの、まさに「ただなか」 に我が身を置くことになるでしょう。

弊廊のオープニング展は、あえて絵画そのものの概念や本質についてじっくりと考える機会になればと思います。ぜひご高覧賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

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《midst》油彩、綿布 162 x 162 cm 2013 【当展出品作品】

 

2013-03-12
Konohana’s Eye #1 伊吹 拓 展「“ただなか” にいること」 【3/15(金)〜5/5(日)】

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the three konohanaのこけらおとしは、関西を拠点に精力的に活動を続けている絵画作家、伊吹拓(IBUKI Taku, b.1977)の個展を開催いたします。

 

オープン当日は、17時よりthe three konohana開廊パーティー/伊吹拓展オープニングパーティーをおこないます。みなさまのお越しを心よりお待ち申し上げます。

 

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