REVIEW
「PAINTINGS 1971-93」はじまりました!
いま美術の現場では、20世紀後半の日本のアートシーンを見直し、再評価する機運が高まっています。関西でも具体や関西ニューウエーブを中心にその活動を再考する展示やイベントが目立っています。本展でご紹介する泉茂さんは、戦後すぐに瑛九と共に「デモクラート美術家協会」を設立し、大阪芸術大学で教鞭をとられた間に多数の作家を輩出するなど、亡くなられて20年余りが経ちますが泉さんの活動面については明らかに大阪および関西のアートシーンを捉えるための重要なポイントになっています。
一方でその活動面だけでなく、泉さん自身の作品表現においてもその要素を考察することが本展の大きな目的です。それは、同時に開催されている和歌山県立近代美術館での泉展も同様です。
泉さんの作品を実際に目の当たりにして、当時の表現の傾向を再考する機会であると同時に、本展を開催する私たちコマーシャルギャラリーとしての立場としては、いまの若い世代の表現を考える上でも絶好の機会であろうと考えています。とりわけ、近年の絵画・平面表現の傾向としては、直接的な身体性や感情といった主観的要素から意識的に距離を置くアプローチが、若い世代の作品に目立ってきている印象があり、本展で紹介している泉さんの作品群にも同様の傾向が随所に見受けられます。以前から美術の表現は常に更新されていると同時に、一定のスパンで同様の傾向を繰り返す図式もあります。もちろんそれぞれの時代背景や環境は異なりますが、細部を比較することによって見えてくる泉さんの作品といまの若い世代の作品の間との共通項を、様々な角度から見出していければと思います。ただ過去を懐かしむだけでなく、現代を過去から見直すことが、過去と現代を隔絶することなく歴史を継承していく大切な考え方だと思います。
本展では、ニューヨークとパリにいた60年代を経た、帰国後の70年代以降の絵画作品を取り上げています。若かりし頃からデモクラート時代の作品には有機的な雰囲気がありましたが、60年代から徐々にその要素が薄まっていきます。そして本展でご紹介する70年代以降の作品は、ほぼエアブラシによって制作されている絵画ですが、いかに身体や感情と距離を置くことで絵画が成立するかに取り組んでいた時代のものです。そのアプローチは、ただ画面をいかにシンプルに構成するかというものではなく、客観性を保ちながら、論理的かつ理知的に画面を構成する制作方法でした。
Yoshimi Artsで展示している70年代の絵画と、ttkで展示している80年代以降の絵画は、以上の観点で一貫性はありますが、実際の作品は両会場でとても対照的です。自らと絵画そのものとの間に距離を置くことと、泉さんが生涯通じて変化を求めてきた狙い、そして壮年期から晩年期に向かう際の変化なども、両会場の作品の比較を通じて見えてくるポイントだと思われます。
本展はYoshimi Artsと2会場の展示に加えて、和歌山県立近代美術館で開催されている回顧展の計3会場で同時に泉さんの展示をご覧いただける機会になりましたが、3会場それぞれ違う視点で泉さんの作品と向き合えるかと思います。和歌山近美の展示では、本展では展示されていない初期の絵画からデモクラート時代、海外渡航時代の作品に加えて、版画作品もあり、泉さんの活動の全容を時代に沿って総体的に捉えることができます。一方で本展は、泉さんの生涯の後半部分を取り上げ、さらに絵画に絞ることで泉さんの平面表現における本質的な思考を読み取っていただく構成になっています。また美術館と対照的な展示空間の規模もあって、個々の作品やその細部に向き合いやすい鑑賞環境になっていると思います。3会場すべての展示を通じて、泉さんの総論と各論の双方を捉えることができる構成です。
本展と和歌山近美でご紹介している泉さんの作品を通じて、過去を整理すると同時に、現代の価値観と結びつけ、さらには絵画や平面表現における将来の展望まで議論や思考が広がっていく機会になればと思います。以前から泉さんをご存じだった方はもちろんのこと、これまで泉さんを知らなかった方々にもぜひご覧いただきたい展覧会です。違う時代、違う価値観であってもそれらを包括できる要素は、泉さんの作品群の随所に散りばめられています。
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