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2013-08-03「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を」を振り返って
ttk開廊2つ目の展覧会となりました「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を」。
ttkの企画の3本柱のうち、作家ではなく専門ディレクターを招致しての企画「Director’s Eye」シリーズのこけら落としとして開催したものですが、ここにはディレクターの結城加代子さんの企画の意図が、ttkの現代美術に対する向き合い方と自然と合致した様を提示した内容となりました。
当展のタイトル「回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を」の通り、この展覧会の最大の目的は、鑑賞者に対する展覧会における鑑賞態度への提言だったように思います。まず展示スペースに入ったときのここの作品の印象が強くないこと、どこからどこまで(何から何まで)が「作品」なのかどうか、一見意味深には感じられるがこの作品配置に何の意図があるのか。この展覧会で4人が作った世界観は、いかに直接的なアプローチを避けるかという点にあったと思います。空間全体を概観しただけでは、何かここにあるのかはさっぱり分からない。そのためには個々の作品へと視界を絞っていく。その中で3人の作家の個性やテーマを読み取り、この3人の表現をどのようにカテゴリー分けしていくか。そこにはもちろん唯一の答えがあるわけではありません。その答えのごとに空間内の地図は複数発生していきます。この展覧会は鑑賞者の数だけその答えがあるというアプローチの元に、計算されて作られたものでした。これから述べる内容は、あくまでも私個人が見て自分の頭の中で作った地図です。

まず、ホワイトキューブの展示から。この空間の展示が、まさにこれぞSLASHと言える作り方で出来上がったものです。作家3人の領域分けは明確だったものの、4人の意思疎通の中で明確に一つのコンセプトによる展示を作ろうと現場で苦心したものでした。この空間においては、作品に直接ベクトルが向く「かたちを認識する視覚」という、一般的な鑑賞で用いられる感覚に頼れない空間だったように思います。
藤田さんは、今回糸の作品を多用し、特に壁面2面を使った大規模なインスタレーションが印象に残っていると思いますが、実は糸の存在にその実態があるのではなく、糸が空間に差し込む太陽光に作用する、そのわずかな変化にその実態がありました。つまり、複数の糸の色が光や白い壁面、または糸同士が交わることで生じる色彩の変化は、糸そのものよりも、それに隣接する空気や空間に視点が向けられていきました。
小林さんは、素材に使った防災グッズよりも、そこに付与される彼女の詩の存在。作家の主観性が入るような手書きの文字ではなく、全て活字によってシートや切り文字として起こされた文字の集合体には、かたちについての意味性はなく、あくまでも文字による情報として、鑑賞者へ提示されていきました。各々の詩によって、防災グッズの意味性を解体するのは本来の小林さんの表現のコンセプトでもありました。
斎藤さんの2種類の映像は、彼自身の日常的な視点を断片的に切り刻み脈略を失くすかのようにつなげていくものですが、彼の映像で強調されるべきは「リズム」です。動画と静止画が切り替わるタイミングと個々の投影時間、そして映像にリンクされる時とされない時がある音声。視覚で受ける「像」はあくまでも「イメージ」に過ぎず、ここに彼の身体性を求めるならば、実体あるものは彼が編集という行為の中で恣意的に作り出した「リズム」に注目すべきなのです。
以上の各作家のアプローチから、当初の想定どおり多くの鑑賞者の方々がこの展示に戸惑ったわけです。視覚に頼らないこととしながらも、個々の作品は物質性を強調しており、視覚での認識へと誘導されざるを得ないものでもありました。しかし、視覚だけでは解答の導きには限界があり、まずは視覚以外の感覚からこのホワイトキューブの展示は読み取るべきであろうと思いました。

そして、奥の和室からベランダへと流れるもう一つの空間。個々の作品作りはホワイトキューブと同じでしたが、どちらかというと個人担当制で作られた展示でした。しかし、この空間に対する取り組みは、ホワイトキューブとは対極の有機的な「サイトスペシフィック」であったと思います。
前回の伊吹展での使い方から一変して、非常にシンプルな展示になりました。このシンプルさは、もちろんホワイトキューブの展示と共通するものですが、そもそも空間自体の意味やシステムが対照的なので、近い手法を取ってもその表現は大きく変化します。そんな展示手法を取って提示したものは、このttkの和室展示室の細部への誘導でした。和室内は、藤田さんと小林さんが照明に施したコラボレーション作品のみ。それによって、室内の畳や窓やふすまや天井に至るまで、鑑賞者の方の視線は和室空間全体へと大きく動くことになりました。前回の伊吹展よりも、お客さんの和室に対する反応が特に多かったことがその現われだと思います。
ベランダ手前の土間付近に藤田さんの小品が複数並んで強弱をつけた後には、最後のベランダでは、1階へ降りる階段に斎藤さんのミニシアターが登場しました。特に最後の斎藤さんのベランダの作品は、ホワイトキューブで流された映像とは異なり、比較的長回しの映像素材が中心で、音声も映像とリンクしているものが多い作品でした。つまり、このttkの和室空間は、かつての生活環境を想像させる実体感のある空間として、その実体あるものとは何かを確認するために、もう一度視覚に戻るというアプローチだったのではないでしょうか。

そもそも、この展示のコンセプトは「美術の展覧会を鑑賞することにおける、鑑賞者への態度の問いかけ」でしたが、その「視覚/見る」行為というものに焦点を当てるために、その周辺へと関心を誘導するものだったのではと思いました。もちろん「見る」ことが、ただ色やかたちを把握するだけではありません。しかし、どうしても答えを拙速に求めるあまりに、視覚以外の感覚をなおざりにしがちです。けれども、最終的には「視覚」は美術表現を読み取るためには必須の感覚です。そうした「道順」を鑑賞者が各自で見つけ出していく。その大切さを伝えようとした企画が、このttkで繰り広げられたSLASHだったのだと思います。
ttkの今後の企画でも、この結城さんたちが実践してくれたアプローチを意識して、鑑賞者の自発性をさらに喚起させる企画を作っていきたいと思います。
2013-08-03SLASH/09展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介
「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を」展につきまして、各所にてプレビュー・レビューをご掲載いただきました。
主だったご掲載記事を以下にまとめてご紹介させていただきます。当展をご紹介くださったみなさまに、心より御礼申し上げます。
・Lmaga.jp「小吹隆文のアート男塾-6月の10本ノック」(プレビュー/6月5日)
http://lmaga.jp/article.php?id=2234
・『美術手帖 7月号』 ART NAVI(プレビュー/6月17日)
・ブログ「プラダーウィリー症候群(Prader-Willi Syndrome)の情報のメモ」(レビュー/6月19日)
http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20130619
・ブログ「亰雜物的野乘」(レビュー/7月18日)
http://zatsuzatsukyoyasai.blogspot.jp/2013/07/directors-eye-1-slash09the-three-knohana.html
2013-07-22「飛鳥アートヴィレッジ2013」参加アーティスト募集のご案内

奈良県明日香村主催によるアーティスト・イン・レジデンスプログラム「飛鳥アートヴィレッジ2013」、参加アーティストの募集がスタートいたしました。
山中は、プログラム・コーディネーターとして、レジデンスと成果発表展示のサポートをさせていただきます。
応募締切は8月30日(金)です。ぜひみなさまのご応募をお待ちしております。
【募集は締め切りました。たくさんのご応募をありがとうございました】
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【事業概要】
趣旨:
日本という国号が誕生した地「飛鳥」。豊かな自然とともに古代の遺跡や寺院が点在する日本最古の都であり、私たち日本人の心の源流がここにあります。
「飛鳥アートヴィレッジ」は若手アーティストを対象に、明日香村のサポートのもとでおこなわれるアーティスト・イン・レジデンスのプログラムです。歴史と自然に育まれた飛鳥の風土に触れ、さらに地元の人々との交流などを通じて、次代の「美」を開拓するとともに、飛鳥のアイデンティティを新たに読み解く作品が生まれる機会となることを願います。
目的:
『明日香まるごと博物館』の実現、さらには世界遺産登録を目指す明日香村。
「飛鳥アートヴィレッジ2013」は、明日香村が日本へ、そして世界へ発信するプレゼンテーションです。
・明日香村での次世代アーティストによる創作活動を通じ、アートを村の新たな観光資源として活用し、誘客促進を目指します。
・本事業を通じて地域住民が村の価値魅力を改めて再認識することで、活性化への意識変革に繋げます。
・将来的には参加アーティストの村内定住も期待します。
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事業スケジュール:
レジデンス(飛鳥寺研修会館) 2014年1月19日~28日(10日間)
作品展示(万葉文化館) 2014年3月11日~22日
募集人数:
アーティスト 5名程度(平面、立体、映像などジャンル不問)
応募締切:
2013年8月30日(金)必着
選考および結果通知:
提出書類をもとに、選考・決定し、結果は10月末に郵送にて通知いたします。
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スペシャルアドバイザー:
絹谷 幸二(洋画家 大阪芸術大学教授)
建畠 晢(京都市立芸術大学学長)
烏頭尾 精(日本画家)
脇田 宗孝(陶芸家)
プログラム・コーディネーター:山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)
主 催:明日香村
共 催:奈良県立万葉文化館、(財)明日香村地域振興公社
協 力:岡村印刷工業株式会社
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応募書類や応募要項など詳しくは、以下の明日香村HPをご覧ください。
http://www.asukamura.jp/topics/art_village_2013/index.html
2013-07-12【SLASH/09 会期延長のご案内】 7/21(日)まで開催中
現在開催中の「SLASH / 09 −回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を−」は、会期を1週間延長して、7月21日(日)まで開催いたします。
7月14日(日)までは通常通りですが、以後は以下の通り変則的な開廊時間となりますので、くれぐれもお間違えのありませんようにご来廊くださいませ。
7月15日(月)~17日(水) 休廊
18日(木) 14:00~19:00
19日(金) 12:00~18:00
20日(土) 休廊
21日(日) 12:00~19:00
7月19日(金)~21日(日)は、JR大阪駅前のホテルグランヴィア大阪にて、アートフェア「ART OSAKA 2013」が開催されます。
ART OSAKAに合わせてご来阪される方も、ぜひご一緒にお越しくださいませ。
2013-07-04外部の展覧会情報 13年7月【7/13更新】
今後こちらでは、ttkとご縁のあった作家・ディレクターによる、ttk外での展覧会情報もお知らせいたします。
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今年春にttkにて個展をしました伊吹拓さんが、「京展2013」に入選し、作品を出品しております。
京都市美術館開館80周年記念展 「2013京展」
会期:7月3日(水)~7月19日(金)
会場:京都市美術館
入場料:大人900円(800)、高大生600円(500)、小中生400円(300)( )内は20名以上の団体料金
京都市内在住の70歳以上の方(京都市敬老乗車証等で確認)と小・中学生及び高校生等は無料。障害者手帳等の提示の方は無料
http://www.city.kyoto.jp/bunshi/kmma/exhibition/kyoten2013.html
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現在ttkで展覧会開催中のディレクター結城加代子さんの企画が、東京の「青山|目黒」にて開催されます。
大田黒衣美「不知火の水まくら」
会期:7月13日(土)~8月10日(土) 12:00-19:00
定休日:日・月曜日
会場・協力:青山|目黒 (東京都目黒区上目黒2-30-6 日比谷線/地下鉄「中目黒駅」徒歩8分)
Tel: 03-3711-4099 http://aoyamameguro.com
企画:KAYOKOYUKI
デザインワーク:CRAFTIVE
http://www.kayokoyuki.com/
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現在ttkで展覧会開催中の作家、藤田道子さんの個展が、東京の「Gallery惺SATORU」にて開催されます。
藤田道子 MIXING COLORS
会期:7月14日(日)~8月4日(日) 12:00 – 19:00
定休日:月・火曜日 *7月15日(月・祝)開廊
オープニングレセプション:7月14日(日) 17:00-19:00
会場:Gallery惺SATORU(東京都武蔵野市御殿山1-2-6 VIEWCANYON吉祥寺御殿山地下1階)
TEL:0422-41-0435 http://gallerysatoru.com/
2013-07-03Konohana’s Eye #2 加賀城 健 展 「ヴァリアブル・コスモス|Variable Cosmos」 9月6日(金)~10月20日(日)
the three konohana、次回の展覧会のご案内です。
開廊後3本目の展覧会は、「Konohana’s Eye」の第2弾として、伝統的な染色の技法を駆使して、工芸と現代美術双方のフィールドで活動する加賀城 健(Ken Kagajo, b.1974)の個展「ヴァリアブル・コスモス|Variable Cosmos」を、9月6日(金)~10月20日(日)の会期にて開催いたします。
【詳しくはこちら】
2013-06-29「此花メヂア」お別れの日

そういえば、このVOICEページにて、此花の町についてのお話をする機会がなかなか無かったのですが、明日に事実上の最後の日を迎える、「此花メヂア」について少しお話させていただきます。
すでにご存知の方も多いかと思いますが、今月をもちまして「此花メヂア」は閉鎖することとなりました。
ttkと同じ大通りに面していて、西九条駅から歩いてお越しの方は必ず前を通られていたと思います。伊吹展が開催されていた4月もメヂアでは展覧会が開催されていたので、中に入られた方もきっと多いかと思います。
最近は正面にわらしべ文庫の本棚が設置されたりして、メヂアの独特なファサードは、ttkにお越しいただいた多くのみなさんの印象にもきっと残っているかと思います。
私にとっての「此花メヂア」との初めて出会いは、初めて此花の地を訪れた2010年秋の「見っけ!このはな」でした。
その頃に此花で特殊なアートの動きをあるとの噂を聞いて伺ったのですが、メヂアの空間は実に衝撃的でした。
大きな地震が起きたらいつつぶれてもおかしくないくらいのオンボロさはもちろんのこと、複数の建物を強引につなげているためにメヂア内は完全に迷路状態。最初の印象として発した言葉が「まるで九龍城だ!」だったのは、今でもはっきりと記憶に残っています。
中に入れば入るほど方向感覚はどんどん麻痺させられ、出迎えてくれる多数の個性的な部屋がその都度私の脳内の物語を書き換えてくれる刺激と想像力にあふれた空間でした。そんなオンボロな建物にもかかわらず、床など各所はきれい掃除整理されていて、アヴァンギャルドなのに慎ましやかさも兼ね備えた環境として、私も一瞬でメヂアの魅力にはまってしまいました。私にとっての此花のイメージも、「此花メヂア」が原点でした。きっと多くの方々にとっても、「此花=メヂア」だったと思います。
ですが、近年はメヂアを利用するメンバーの入れ替えが目立ち、当初は共同アトリエとして機能していたメヂアも、アトリエとして使われる機会が少なくなるなど、メヂアの求心力が徐々に弱まっていたことは否めませんでした。代わりに、昨年からのOTONARIやモトタバコヤ、そしてこのttkもそうですが、此花の古い建物を活用するという点では同じであっても、そこに現代的なイメージの積極的な融合や、一定の明確な役割・目的を提示するスペースが続々と立ち上がり、明らかに此花のブランドイメージ(と呼んでもいいのでしょうか)は入れ代わってきております。
改めてこれまでを見直すと、此花はメヂア主導による狭義の「アート」が強かった町だったように思えます。独自性や個性を重んじる「アート」を看板に掲げて、良い意味での無秩序から新しい価値観が生み出される可能性を大いに提示して、いわゆる「オルタナティヴ」の代表格のようなイメージが発信されていたように感じます。一方で最近は、建築・デザイン・町という要素が台頭してきて、社会性を意識した秩序の下に各種活動が広まっているように思います。数年前に比べると、明らかに此花には多種多様な人々が集まってきています。受け皿がそれなりに大きく強固になってきた一方で、かつてのもっと荒々しくて自由奔放な此花のイメージは影を潜めたように見えます。ですが、常に変わらぬ価値観で継続していくことは、現代の社会システムの上ではほぼ不可能に近いです。今年から新参者として此花の町に加わった私としては、常にあらゆる価値観が流動的になっていく現代を生き抜くためには自然な選択だったのではと思います。秩序と無秩序、解体と構築、死と再生。常にそれらの間を行き来しながら、あらゆるものが成長し生き延びるのだと思います。私は明らかにメヂアの次の流れの側にいる人間ですので、この変化をプラス思考で受け入れるしかできません。
しかしながら、これまでの此花のアートを代表するのは間違いなく「此花メヂア」であり、此花のブランドイメージを各地に広めた一番の貢献者かつ象徴であることは疑いありません。
明日6月30日(日)17時より、【此花メヂア最後の日】としてオープンアトリエが開催されます。あの衝撃的な空間が見られるのも明日が最後です。お時間がありましたら、ぜひ最後のメヂアを見届けていただければと思います。
https://www.facebook.com/events/399048563537735/
2013-06-27KAMO 6th Meeting 【7/6(土)20:30〜】

2013年7月6日(土)20時30分〜23時30分(20時開場) ※ 通常よりも30分遅れでのスタートになります
会場:OTONARI(大阪市此花区梅香1−15−18 梅香堂のお隣)
トークゲスト:片山 和彦さん(GALLERY wks. 代表)、木内 貴志さん(現代美術家)
前々回のアートフェア、前回のコマーシャルギャラリーに引き続い
貸しギャラリーも単一のカテゴリーでは簡単にくくれないほどの、
2013-06-18「回路の折り方」ができるまで。そして、「道順」を見つけだすこと。

さて、先週よりttk2つ目の展覧会「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を−」が始まりました。今回の展覧会は、Director’s Eyeの第一弾として、東京で活躍目覚しい結城加代子さんをディレクターにお招きしての企画です。展覧会のタイトル、そして斬新なポスター型フライヤーからして、展覧会前からみなさんの興味を大変そそるものだったと思います。そして設営も、オープン5日前から作家のみなさんと共にttkのすぐご近所「モトタバコヤ」に順次宿泊して、まさにアーティスト・イン・レジデンスさながらの作業となりました。私にとっても自らのギャラリーの企画を他人にゆだねることだけにとどまらない、これら展覧会が出来上がるまでの過程、そして会期がスタートしてからも、今までに経験したことのない不思議な感覚に満ち溢れています。
設営の5日間で私が作業を見ていた中でとても興味深かったのが、結城さんと3人の作家さんとのコミュニケーションの作り方でした。結城さんがその都度作家さんに指示してリーダーシップの下で出来上がっていくというかたちではありませんでした。結城さんは、多くの時間を一人で奥の和室に入ってのパソコン作業に費やし、たまに作家さんたちが作業をしているメインスペースに入って、これも明確な指示をするというよりは作家さんに意見を聞いたり、ただコミュニケーションをとるということに徹していたように思いました。設営が始まるまで東京で幾度と重ねたミーティングでは、基本的にはお互いがコミュニケーションをとってお互いの考え方を共有できる関係性の構築に徹していたようです。結城さんの指示に一極集中するのではなく、作家同士がお互いを尊重しながら自らも主張する、そんな平等な関係性を準備段階で重要視して築いてきたようです。そのため、結城さんの合流は設営3日目からでしたが、それまでの2日間は作家さん3人が何度も相談しながら積極的に何種類も展示のバリエーションをシミュレーションして、それを踏まえて3日目からの結城さんとのディスカッションという流れで、少しずつ丁寧に展示を積み上げていきました。この綿密なコミュニケーションの跡は、特にホワイトキューブの展示構成に如実に現れています。
会期も前半戦なので、私からの展示内容についての解説はまだ控えたいと思います。特にこの展示は、まずギャラリーに入ったときの鑑賞の態度からがこの企画のポイントです。きっと大半の方が、混乱・困惑の印象から鑑賞が始まると思います。またどの作品もさらっと見ただけでは全体をつかむのは非常に難しく、まずミクロの視点で見てようやく一つの作品が見えてくるようなものです。それから展示空間全体を腑監視するマクロの視点から、それぞれの作品との関連性を見ていくのですが、共通点があったり時には分断するものがあったりと、まさに展覧会タイトルの通り「回路」が折られています。そして、見る側の理性と感性を駆使することで「あとでわかる道順」が少しずつ浮かび上がってくる、そんな仕掛けがふんだんに仕組まれている展覧会です。といっても、これもあくまでも鑑賞のバリエーションの一つに過ぎないと思います。現場にずっといる私だから言えますが、本当に一筋縄ではいかない複雑な「回路」です(笑)。
前回の伊吹展から何度もお伝えしていますが、ttkの展覧会会期は1ヵ月半。今回も1度のご来廊だけではなく、何度も足を運んでいただいて「回路」と「道順」を見つけていただきたい展覧会です。結城さんのテキストの最後に書かれています「私たちには平等に一定の時間が与えられていながら、体験や経験によって、感じることのできる時間は伸び縮みしてしまう」は、複数回ご覧いただかないとむしろ当展の趣旨は見えませんよという、ある意味結城さんの挑発的な(笑)コメントと解釈しております。
今回も1ヵ月半かけて、じっくりと展覧会の本質を読み取っていくことになりそうです。ぜひ私自身も、お越しいただいたみなさまと展示を前にして対話を重ねて、結城さん、小林さん、斎藤さん、藤田さんによる複雑な「回路」と「道順」を見つけ出していきたいと思っております。
ttk第2弾の展覧会もくれぐれもお見逃し無く!みなさまのお越しを心よりお待ちしております!!
2013-06-18ようこそ、ART OSAKA ! 〜ぐるりとギャラリー、大阪ツアー〜

昨年に引き続き、国内有数のアートフェア「ART OSAKA」の関連イベントとして、「ようこそ、ART OSAKA ! 〜ぐるりとギャラリー、大阪ツアー〜」を、関西アートカレンダーとの共同企画により実施いたします。
詳しくは、アート大阪HP(http://www.artosaka.jp/)のイベントページをご覧ください。
■ 開催概要
日時:7月20日(土) 13:00〜18:30
企画・ナビゲーター:関西アートカレンダー、山中俊広(インディペンデント・キュレーター)
場所:大阪市内の現代美術ギャラリー・観光名所
参加料:交通費・飲食代は実費(ART OSAKA 入場チケット要)
ルートAは御舟かもめ乗船料2000円
ルートOはGalaxy Gallery入場料500円(ワンドリンク付き)
定員:先着18名[2ルート 各9名]
申込・問合せ:tourkac@gmail.com(関西アートカレンダー大阪ツアー事務局)
