REVIEW

「Argleton」はじまりました!

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ttkでは初めての個展となる森村誠さん。これまで関西と関東でも発表の機会が多い作家だったので、すでに森村さんのことをご存知の方も多いかと思います。今年の年初には岡本太郎現代芸術賞展にも出品して、その時の膨大な数の切手を縫い合わせた作品が記憶に残られている方もおられるかと思います。

本展の森村さんの作品は、全て本展のために制作されたオール新作での構成になっております。それだけでも彼の膨大な仕事量に圧倒されてしまいますが、視点はそこだけではありません。以前からの森村さんの代表的な手法である印刷物上の情報を修正液で消していく行為に、近年から始めた印刷物を縫い合わせていく行為の2種類の反復行為が、同等のバランスで組み合わされているのが本展の大きな特徴であり、それによって印刷物の従来の情報を積極的に変化させている点も、森村さんの表現の次の展開を示唆させる要素でもあります。

森村さんの印刷物を介した「情報」へのアプローチのポイントは、作品に具体的な「情報」に対する彼の意思表示やメッセージを提示をするのではなく、私たち鑑賞者が「情報」という概念に向き合い、積極的な思考を巡らせる装置として作品を位置づけるところにあります。情報を改変する森村さんの作品上での行為は、あくまでも個人的な体験からそのルールを決めており、彼のプライベートな動機に共感することが作品解釈の答えではありません。情報という概念から自らを断絶させることがほぼ不可能な現代社会において、いかにその現状を認め受け入れるかが、まず森村さんの作品を鑑賞する前提にあると思います。修正液で情報を取捨選択して絞りながらも、それらをまた縫い合わせる(つなぎ合わせる)ことで、結局は再び膨大な情報の存在に気づかされる。まさに堂々巡りです。

そして、最初のご案内文にも書きましたが、先月に実施された大阪都構想の住民投票がもし可決されていたら、この時期には大阪の地図が近い将来書き換えられるという状況で、森村さんの新作を見ることになっていました。私たちが常に受け入れ続けている「情報」は、その原型を失う時がいつやってきてもおかしくありません。そんな日常的に私たちが触れざるを得ない「情報」に、新たな気づきや向き合い方を見つける機会になれば幸いです。


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Posted on 2015-06-08 | Posted in REVIEW |

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