お知らせ
2013-07-22「飛鳥アートヴィレッジ2013」参加アーティスト募集のご案内
奈良県明日香村主催によるアーティスト・イン・レジデンスプログラム「飛鳥アートヴィレッジ2013」、参加アーティストの募集がスタートいたしました。
山中は、プログラム・コーディネーターとして、レジデンスと成果発表展示のサポートをさせていただきます。
応募締切は8月30日(金)です。ぜひみなさまのご応募をお待ちしております。
【募集は締め切りました。たくさんのご応募をありがとうございました】
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【事業概要】
趣旨:
日本という国号が誕生した地「飛鳥」。豊かな自然とともに古代の遺跡や寺院が点在する日本最古の都であり、私たち日本人の心の源流がここにあります。
「飛鳥アートヴィレッジ」は若手アーティストを対象に、明日香村のサポートのもとでおこなわれるアーティスト・イン・レジデンスのプログラムです。歴史と自然に育まれた飛鳥の風土に触れ、さらに地元の人々との交流などを通じて、次代の「美」を開拓するとともに、飛鳥のアイデンティティを新たに読み解く作品が生まれる機会となることを願います。
目的:
『明日香まるごと博物館』の実現、さらには世界遺産登録を目指す明日香村。
「飛鳥アートヴィレッジ2013」は、明日香村が日本へ、そして世界へ発信するプレゼンテーションです。
・明日香村での次世代アーティストによる創作活動を通じ、アートを村の新たな観光資源として活用し、誘客促進を目指します。
・本事業を通じて地域住民が村の価値魅力を改めて再認識することで、活性化への意識変革に繋げます。
・将来的には参加アーティストの村内定住も期待します。
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事業スケジュール:
レジデンス(飛鳥寺研修会館) 2014年1月19日~28日(10日間)
作品展示(万葉文化館) 2014年3月11日~22日
募集人数:
アーティスト 5名程度(平面、立体、映像などジャンル不問)
応募締切:
2013年8月30日(金)必着
選考および結果通知:
提出書類をもとに、選考・決定し、結果は10月末に郵送にて通知いたします。
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スペシャルアドバイザー:
絹谷 幸二(洋画家 大阪芸術大学教授)
建畠 晢(京都市立芸術大学学長)
烏頭尾 精(日本画家)
脇田 宗孝(陶芸家)
プログラム・コーディネーター:山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)
主 催:明日香村
共 催:奈良県立万葉文化館、(財)明日香村地域振興公社
協 力:岡村印刷工業株式会社
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応募書類や応募要項など詳しくは、以下の明日香村HPをご覧ください。
http://www.asukamura.jp/topics/art_village_2013/index.html
2013-06-29「此花メヂア」お別れの日
そういえば、このVOICEページにて、此花の町についてのお話をする機会がなかなか無かったのですが、明日に事実上の最後の日を迎える、「此花メヂア」について少しお話させていただきます。
すでにご存知の方も多いかと思いますが、今月をもちまして「此花メヂア」は閉鎖することとなりました。
ttkと同じ大通りに面していて、西九条駅から歩いてお越しの方は必ず前を通られていたと思います。伊吹展が開催されていた4月もメヂアでは展覧会が開催されていたので、中に入られた方もきっと多いかと思います。
最近は正面にわらしべ文庫の本棚が設置されたりして、メヂアの独特なファサードは、ttkにお越しいただいた多くのみなさんの印象にもきっと残っているかと思います。
私にとっての「此花メヂア」との初めて出会いは、初めて此花の地を訪れた2010年秋の「見っけ!このはな」でした。
その頃に此花で特殊なアートの動きをあるとの噂を聞いて伺ったのですが、メヂアの空間は実に衝撃的でした。
大きな地震が起きたらいつつぶれてもおかしくないくらいのオンボロさはもちろんのこと、複数の建物を強引につなげているためにメヂア内は完全に迷路状態。最初の印象として発した言葉が「まるで九龍城だ!」だったのは、今でもはっきりと記憶に残っています。
中に入れば入るほど方向感覚はどんどん麻痺させられ、出迎えてくれる多数の個性的な部屋がその都度私の脳内の物語を書き換えてくれる刺激と想像力にあふれた空間でした。そんなオンボロな建物にもかかわらず、床など各所はきれい掃除整理されていて、アヴァンギャルドなのに慎ましやかさも兼ね備えた環境として、私も一瞬でメヂアの魅力にはまってしまいました。私にとっての此花のイメージも、「此花メヂア」が原点でした。きっと多くの方々にとっても、「此花=メヂア」だったと思います。
ですが、近年はメヂアを利用するメンバーの入れ替えが目立ち、当初は共同アトリエとして機能していたメヂアも、アトリエとして使われる機会が少なくなるなど、メヂアの求心力が徐々に弱まっていたことは否めませんでした。代わりに、昨年からのOTONARIやモトタバコヤ、そしてこのttkもそうですが、此花の古い建物を活用するという点では同じであっても、そこに現代的なイメージの積極的な融合や、一定の明確な役割・目的を提示するスペースが続々と立ち上がり、明らかに此花のブランドイメージ(と呼んでもいいのでしょうか)は入れ代わってきております。
改めてこれまでを見直すと、此花はメヂア主導による狭義の「アート」が強かった町だったように思えます。独自性や個性を重んじる「アート」を看板に掲げて、良い意味での無秩序から新しい価値観が生み出される可能性を大いに提示して、いわゆる「オルタナティヴ」の代表格のようなイメージが発信されていたように感じます。一方で最近は、建築・デザイン・町という要素が台頭してきて、社会性を意識した秩序の下に各種活動が広まっているように思います。数年前に比べると、明らかに此花には多種多様な人々が集まってきています。受け皿がそれなりに大きく強固になってきた一方で、かつてのもっと荒々しくて自由奔放な此花のイメージは影を潜めたように見えます。ですが、常に変わらぬ価値観で継続していくことは、現代の社会システムの上ではほぼ不可能に近いです。今年から新参者として此花の町に加わった私としては、常にあらゆる価値観が流動的になっていく現代を生き抜くためには自然な選択だったのではと思います。秩序と無秩序、解体と構築、死と再生。常にそれらの間を行き来しながら、あらゆるものが成長し生き延びるのだと思います。私は明らかにメヂアの次の流れの側にいる人間ですので、この変化をプラス思考で受け入れるしかできません。
しかしながら、これまでの此花のアートを代表するのは間違いなく「此花メヂア」であり、此花のブランドイメージを各地に広めた一番の貢献者かつ象徴であることは疑いありません。
明日6月30日(日)17時より、【此花メヂア最後の日】としてオープンアトリエが開催されます。あの衝撃的な空間が見られるのも明日が最後です。お時間がありましたら、ぜひ最後のメヂアを見届けていただければと思います。
https://www.facebook.com/events/399048563537735/
2013-06-18「回路の折り方」ができるまで。そして、「道順」を見つけだすこと。
さて、先週よりttk2つ目の展覧会「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を−」が始まりました。今回の展覧会は、Director’s Eyeの第一弾として、東京で活躍目覚しい結城加代子さんをディレクターにお招きしての企画です。展覧会のタイトル、そして斬新なポスター型フライヤーからして、展覧会前からみなさんの興味を大変そそるものだったと思います。そして設営も、オープン5日前から作家のみなさんと共にttkのすぐご近所「モトタバコヤ」に順次宿泊して、まさにアーティスト・イン・レジデンスさながらの作業となりました。私にとっても自らのギャラリーの企画を他人にゆだねることだけにとどまらない、これら展覧会が出来上がるまでの過程、そして会期がスタートしてからも、今までに経験したことのない不思議な感覚に満ち溢れています。
設営の5日間で私が作業を見ていた中でとても興味深かったのが、結城さんと3人の作家さんとのコミュニケーションの作り方でした。結城さんがその都度作家さんに指示してリーダーシップの下で出来上がっていくというかたちではありませんでした。結城さんは、多くの時間を一人で奥の和室に入ってのパソコン作業に費やし、たまに作家さんたちが作業をしているメインスペースに入って、これも明確な指示をするというよりは作家さんに意見を聞いたり、ただコミュニケーションをとるということに徹していたように思いました。設営が始まるまで東京で幾度と重ねたミーティングでは、基本的にはお互いがコミュニケーションをとってお互いの考え方を共有できる関係性の構築に徹していたようです。結城さんの指示に一極集中するのではなく、作家同士がお互いを尊重しながら自らも主張する、そんな平等な関係性を準備段階で重要視して築いてきたようです。そのため、結城さんの合流は設営3日目からでしたが、それまでの2日間は作家さん3人が何度も相談しながら積極的に何種類も展示のバリエーションをシミュレーションして、それを踏まえて3日目からの結城さんとのディスカッションという流れで、少しずつ丁寧に展示を積み上げていきました。この綿密なコミュニケーションの跡は、特にホワイトキューブの展示構成に如実に現れています。
会期も前半戦なので、私からの展示内容についての解説はまだ控えたいと思います。特にこの展示は、まずギャラリーに入ったときの鑑賞の態度からがこの企画のポイントです。きっと大半の方が、混乱・困惑の印象から鑑賞が始まると思います。またどの作品もさらっと見ただけでは全体をつかむのは非常に難しく、まずミクロの視点で見てようやく一つの作品が見えてくるようなものです。それから展示空間全体を腑監視するマクロの視点から、それぞれの作品との関連性を見ていくのですが、共通点があったり時には分断するものがあったりと、まさに展覧会タイトルの通り「回路」が折られています。そして、見る側の理性と感性を駆使することで「あとでわかる道順」が少しずつ浮かび上がってくる、そんな仕掛けがふんだんに仕組まれている展覧会です。といっても、これもあくまでも鑑賞のバリエーションの一つに過ぎないと思います。現場にずっといる私だから言えますが、本当に一筋縄ではいかない複雑な「回路」です(笑)。
前回の伊吹展から何度もお伝えしていますが、ttkの展覧会会期は1ヵ月半。今回も1度のご来廊だけではなく、何度も足を運んでいただいて「回路」と「道順」を見つけていただきたい展覧会です。結城さんのテキストの最後に書かれています「私たちには平等に一定の時間が与えられていながら、体験や経験によって、感じることのできる時間は伸び縮みしてしまう」は、複数回ご覧いただかないとむしろ当展の趣旨は見えませんよという、ある意味結城さんの挑発的な(笑)コメントと解釈しております。
今回も1ヵ月半かけて、じっくりと展覧会の本質を読み取っていくことになりそうです。ぜひ私自身も、お越しいただいたみなさまと展示を前にして対話を重ねて、結城さん、小林さん、斎藤さん、藤田さんによる複雑な「回路」と「道順」を見つけ出していきたいと思っております。
ttk第2弾の展覧会もくれぐれもお見逃し無く!みなさまのお越しを心よりお待ちしております!!
2013-06-18ようこそ、ART OSAKA ! 〜ぐるりとギャラリー、大阪ツアー〜
昨年に引き続き、国内有数のアートフェア「ART OSAKA」の関連イベントとして、「ようこそ、ART OSAKA ! 〜ぐるりとギャラリー、大阪ツアー〜」を、関西アートカレンダーとの共同企画により実施いたします。
詳しくは、アート大阪HP(http://www.artosaka.jp/)のイベントページをご覧ください。
■ 開催概要
日時:7月20日(土) 13:00〜18:30
企画・ナビゲーター:関西アートカレンダー、山中俊広(インディペンデント・キュレーター)
場所:大阪市内の現代美術ギャラリー・観光名所
参加料:交通費・飲食代は実費(ART OSAKA 入場チケット要)
ルートAは御舟かもめ乗船料2000円
ルートOはGalaxy Gallery入場料500円(ワンドリンク付き)
定員:先着18名[2ルート 各9名]
申込・問合せ:tourkac@gmail.com(関西アートカレンダー大阪ツアー事務局)
2013-06-07Director’s Eye #1 結城 加代子 「SLASH / 09 −回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を−」
・「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を」 展示風景
・「SLASH/09 回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を」を振り返って
・SLASH/09展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介
Director’s Eye #1 結城 加代子
「SLASH / 09 −回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を−」
2013年6月7日(金)〜7月14日(日)
☆ 7月22日(月)まで会期延長いたします。
7月15日(月)~17日(水) 休廊
18日(木) 14:00~19:00
19日(金) 12:00~18:00
20日(土) 休廊
21日(日) 12:00~19:00
22日(月) 13:00~18:00 [再延長]
開廊時間:毎週木曜〜日曜 12:00〜19:00
休廊日:毎週月曜〜水曜
会場:the three konohana
展覧会ディレクター:結城 加代子(KAYOKOYUKI)
出品作家:小林 礼佳、斎藤 玲児、藤田 道子
デザインワーク:CRAFTIVE
オープニングパーティー:6月7日(金)17時〜
トークショー:6月7日(金)18時〜19時
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Director’s eyeの第1弾は、結城 加代子(YUKI Kayoko, b.1980)の企画によるグループ展「SLASH / 09 -回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を-」を開催いたします。
結城は2011年に「KAYOKOYUKI」を立ち上げ、特定のスペースを設けず、独自の切り口による展覧会企画や、自らの取り扱い作家の企画やマネージメントなどを、東京を中心に精力的に展開しています。
彼女の仕事の中で特筆すべきものは、毎回異なる出品作家をセレクトしたグループ展シリーズ「SLASH」です。作家と共に幾度とミーティングを重ねながら、お互いの意識やイメージを共有させていくことから、企画作りは始まります。各作家およびディレクターの異なる個性を尊重しながらも自然と一つの磁場へと引き寄せるかのように、各人の思考やプロセスが丁寧かつ平等に積み重ねられて、一体感がみなぎる展示を毎回実現してきました。ディレクターの立場の人間が、作家と誠実なコミュニケーションをとって展覧会を作るということの、理想的なモデルケースの一つであるように思います。
彼女独特のバランス感覚に満ちたコミュニケーション力でもって、作家の新たな一面を引き出す手腕と、首尾一貫した思考と実行力による彼女の企画は、各所で高く評価されています。当展は、結城による展覧会企画を、関西で初めて開催するものです。この「Director’s Eye」シリーズは、展覧会を企画する専任ディレクターの育成とその役割の必要性を強調するための企画です。近年作家主導による展覧会企画が各所で目立つ中で、専任のディレクターによる企画から現れるべき思考やスタンスにおける客観性、そして作家とディレクターを分業することによって、展示および個々の作家のクオリティの向上をもたらすことの実効性を、彼女の企画を通じて強く実感していただける機会になればと思います。
the three konohana 山中 俊広
【当展趣旨】
このたびKAYOKOYUKIは、大阪市此花区にオープンしたばかりのギャラリースペース、the three konohana にて、連続シリーズ『SLASH』を開催致します。SLASH』展は、複数人のアーティストをとりあげ、シリーズで展開していく企画展です。
この企画『SLASH』では、単に複数人のアーティストを並べて展示するだけではなく、事前に幾度となくミーティングを重ね、お互いのイメージや意識を深く理解するところから始めていきます。その上で、それでは作品を通して、自分たちは社会にいったい何を提示できるのか、何がおもしろいのか、何が可能であるのかを話し合い、展示プランを決めます。また、それはDMのデザインにも及び、それぞれの共通する目的からキーワードを上げ、アートディレクターのCRAFTIVEとともに一つの作品を生み出すように制作されています。その時代の流行や、1人のアーティスト、キュレーターの視点に委ねるのではなく、それぞれの立場で考えを出し合い、自らの手でまず価値をつくっていくことこそが必要であると考えています。個人で完結するのではなく、また勝ち負けではないところで、それぞれの思想が交わること、そこから生まれる想像力の多様性を信じて探っていきます。
第9回目となる『SLASH / 09 -回路の折り方を しかし、あとで突然、わかる道順を-』では、小林 礼佳(KOBAYASHI Ayaka,b.1988)、斎藤 玲児(SAITO Reiji, b.1987)、藤田 道子(FUJITA Michiko, b.1980)の3人展を開催します。
小林 礼佳は、2013年に武蔵野美術大学大学院を修了し、GALLERY b.TOKYO(東京)での個展や、若手ギャラリーの集合企画展『COVERED TOKYO: October, 2012』などで、物質と言葉を組み合わせた挑戦的な作品を発表し続けています。今年行われた修了制作展においては、25平米ほどの白い空間に”く” の字型の壁を配置し、自身で紡ぎだした言葉を貼付けていきました。鑑賞者は、その始まりと終わりの不明瞭な途切れ途切れの文章を探しながらさまよい、一瞬ホワイトアウトしかける視点を、ふいに現れる言葉により現実につなぎ止められるような、複雑な感覚に陥ります。
斎藤 玲児は、2010年に武蔵野美術大学を卒業し、〈#1〉~〈#14〉までの映像作品を制作しました。最近では2013年に山手83(神奈川)で個展を開催し、最新作となる〈#13〉、〈#14〉を発表しました。日常的に撮影し続けている写真と映像を素材に、iMovieを使ったアナログに近い手法で切り貼りしていきます。かつて記録された連続的な事象は、音も図像も感情も一度バラバラになり、編集される時の斎藤の身体を通して新たに再構成されます。普段の生活の中で出会った人物、風景、出来事を扱いながらそこから一定の距離を保ち、あくまで絵の具やキャンバスなどの物質を扱うようにPCは操作され、決定されます。
藤田道子は、2004年に東京造形大学版画コース研究生を修了し、現在同大学にて非常勤講師として従事しています。シルクスクリーンの技法を使い、紙だけでなく布や鏡などの素材にもプリントする他、様々な物質を扱いインスタレーションします。薄い透明色のインクを使って、細い線の重なりによって描く幾何学模様や、木材やガラスに糸やリボンを組み合わせた作品など、モノがそこに存在することで生まれる光の反射や影などの自然現象を生み出します。Gallery惺SATORU(東京)やRyumon coffee stand(東京)などで個展を開催しています。
今年発行されたガーディアン誌が、「私たちの時間の感じ方は感情によって変化する」と報じました。脳の時間の知覚には、それまで経験した記憶や年齢などに対する相対的な情報と、その瞬間に感じている怒りや恐怖、親しみや愛しさなどの感情に対する注意のプロセスも同時に作用しているという研究結果でした。私たちには平等に一定の時間が与えられていながら、体験や経験によって、感じることのできる時間は伸び縮みしてしまうのです。 3人のアーティスト達は、それぞれが全く異なる手法によって素材やメディアを扱い、日常に複雑に絡み合う現象の瞬間を作品に収めています。もし彼らの作品に潜んでいる回路を辿ることで、それまで感じ得なかった感情や感触を疑似体験できたなら、相対的に感じるのみでは行き当たらない、リアルタイムな経験による個々の新しい回路を発見できるのではないでしょうか。
当展ディレクター 結城 加代子(KAYOKOYUKI)
※『SLASH』とは…ファンが作った2次創作作品(ファン・フィクション)の中で、キャラクター同士が結びつくようなカップリングを示す際に間にスラッシュ記号( / )を入れたことから、それらを総称して「スラッシュもの」と呼ばれています。
2013-05-21伊吹 拓 展「“ただなか”にいること」 展示記録
撮影日:2013年5月3日 撮影:長谷川 朋也
2013-05-20ttk開廊および伊吹拓展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介
ttkの開廊と伊吹拓展につきまして、各所にて多くのプレビュー・レビューをご掲載いただきました。
主だったご掲載記事を以下にまとめてご紹介させていただきます。ttkおよび伊吹展をご紹介くださったみなさまに、心より御礼申し上げます。
・Lmaga.jp「小吹隆文が選ぶ2月のスペシャル展覧会」(プレビュー/2月19日)
http://lmaga.jp/article.php?id=2055
・CNTR「the three konohana オープン」(プレビュー/3月13日)
http://cntr.jp/news/the-three-konohana/
・ブログ「プラダーウィリー症候群(Prader-Willi Syndrome)の情報のメモ」(レビュー/3月16日)
http://d.hatena.ne.jp/prader-willi/20130316
・『美術手帖』4月号 ART NAVI(プレビュー/3月18日)
・『GALLERY 4月号』「NEW GALLERY特集(P.101)」(プレビュー/4月1日)
・ブログ「アートのある暮らし allier style」(レビュー/4月6日)
http://allierstyle.blog.fc2.com/blog-entry-33.html
・ブログ「よしもと芸人 おかけんた・ブログ」(レビュー/5月1日)
http://nicevoice.laff.jp/blog/2013/05/post-64bb.html
・『美樂舎 会報第258号』「丹伸巨のコレクター日記」(レビュー/5月7日)
美樂舎HP:http://bigakusya.com/
2013-05-16伊吹拓展を振り返って
まず、この伊吹拓展はttk最初の展覧会であること。今後ttkが認知されていくにつれて、この展覧会によってギャラリーのイメージの半分は確実に形成されていく、ただの1回目では止まらない非常に重要なものでした。そして、伊吹さんにとっても、本格的に当展の出品作品を制作し始めた時期にギャラリー空間が出来上がっていないという(最終的には作品搬入の当日に引き渡し完了)、あくまでもギャラリー空間の完成予想のイメージのみで作品の構成を考えなければならなかった稀有な状況の中で完成した展覧会でした。
伊吹さんにとっては、こういう特殊な環境の中で、自分自身のこれまで積み重ねてきた表現から次への新たな展開を見せようと意気込んでいただき、それが明確な形となって当展の展示構成に現れたと、私自身強く自負しております。これまで感性による世界観を抽象絵画というフォーマットに描き続けてきた伊吹さんでしたが、今回は特にホワイトキューブのスペースに並んだ3点の横長の大作と、メインイメージになった100号スクエアの作品に、次の展開を示唆させる表現がはっきりと見られました。
それは明確な意識を持って画面上に刻まれた強い筆致と、画面に押し込められた数多くの要素たち。筆致の強弱、多様な色彩、かたち、更には表面上のマチエールと、これまでの伊吹さんの作品には無かった、膨大な情報量としてのディティールでもって画面上を埋め尽くすことを意図した作品群が提示されました。
これら当展のメインというべき4作品の特徴は、これまでの伊吹さんの作品に頻繁に見られた心象的とされるイメージや空間的表現ともいえる描写から、いかに絵画、画面というプリミティブな概念に向き合っていくかという、彼の強い意志が垣間見られるものでした。解釈によっては、これまでの鑑賞者が介入する余地の大きかった画面から、自分自身の世界へ没入していくような様もあり、時には鑑賞者をも突き放すかのような冷たさも感じられました。更に、彼の自発的なストロークや数々のディティールを過剰なほどに画面上に入れ込むことによって、逆にオールオーヴァーなイメージは影を潜めて、限られた画面上でいかに自らの多様な要素をコンポジションしていくかが、伊吹さんの今回の大きな目的であり成果だったように思えます。
そのプロセスが概念的に伝わるという点で効果的だったものが、奥の和室にあったワーク・イン・プログレスの作品でした。6畳の和室に仰向けに置いた巨大なキャンバスに、最終的に会期中4回の重ね塗りをおこない、実際の作品が出来上がるプロセスを垣間見せるものでした。しかしながら、この試みは公開制作としてはおこなわず、お客さんが帰られた夜に加筆はおこなわれ、油の匂いが充満し表面が全く乾いていないみずみずしい画面が、翌日に突然現れるという状況を幾度と見せることになりました。行為としてのプロセスが決して具体的な様では見られない、あくまでも鑑賞者の想像の中で新しい画面が塗り重ねられることによって、鑑賞者の関心はより画面の方に集中し、油が乾いていく時間経過の中で細部が徐々に形成されていく感覚にも、絵画としての純粋なプロセスが強調されていくものとなりました。更にこの作品には、伊吹さんがこの1ヶ月半の会期の中で此花の町の雰囲気に触れ、その印象が自然に作品へと反映されていった、サイトスペシフィックな要素が予想以上に強かったこともここに書き加えておきます。
改めましてこの伊吹展では、伊吹さん自身の「絵画」そのものへの意識の強まりと共に、ttkとしましても、現代の絵画における本質というものに、私自身を含めて多くの方々への関心の誘導とその必要性を訴え、それらが明確に打ち出せた内容となったと思います。当展のテキストにも書かせていただきましたが、「あえて絵画そのものの概念や本質についてじっくりと考える機会になれば」の通りに、お越しいただいた方々からもそのような機会となったとの声を多数いただきました。ホワイトキューブと和室、二つの展示室の対比から、画面上に具体的なイメージが存在しない本来の「抽象絵画」としての存在をより一層強調させることで、純粋な絵画性を多くの方々に強く印象付けることができ、伊吹さんの従来からのイメージの転換にも、そしてttkのブランドイメージの創出にも意義のある展覧会であったと思います。
最後になりましたが、ttk最初の展覧会として、大変多くのみなさまにご来廊いただきましたこと、心より感謝申し上げます。そして、これからの伊吹さんの更なる展開にもぜひご期待ください。
2013-03-21「ボーダーレスのゆくえ」@なんばパークス【3/21(木)〜31(日)】
山中俊広キュレーションによる企画展を、なんばパークスにて開催いたします。
the three konohanaと当会場は阪神なんば線で直通です。the three konohanaの伊吹展と合わせてぜひご高覧ください。
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■開催概要
タイトル:
「ボーダーレスのゆくえ」 大阪芸術大学グループ 美の冒険者たち なんぱパークスアートプログラム vol.9
開催日時:
2013年3月21日(木)~3月31日(日) 会期中無休 11時~20時(最終日のみ17時まで)
出品作家:
山村幸則、森村誠、川瀬知代、岡本啓、山本聖子、山下智博、上瀬留衣
会場:
なんばパークス 7Fパークスホール http://www.nambaparks.com/
(〒556-0011 大阪市浪速区難波中2丁目10-70) 入場無料
総合ディレクター:谷 悟(大阪芸術大学 芸術計画学科 准教授)
キュレーター:山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)
協賛:南海電気鉄道株式会社
協力:Gallery OUT of PLACE、Yoshiaki Inoue Gallery、GALLERY wks.
会場協力:なんばパークス
主催:大阪芸術大学グループ 主管:大阪芸術大学 芸術計画学科
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□関連イベント
トークショー「近年の大阪のアートシーンと大阪芸大の変遷」
日時:3月24日(日) 14時~15時30分
出演:小吹 隆文(美術ライター)
山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)
ギャラリートーク
日時:3月30日(土) 15時~16時
出演:田中 梨枝子(神戸ゆかりの美術館 学芸員)
高橋 真理子(大阪府立江之子島文化芸術創造センター アートコーディネーター)
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■ 当展趣旨
近年、「ボーダーレス」という言葉や概念が巷に氾濫しているように思います。戦後日本の連綿と続いてきた社会構造の行き詰まりから、あらゆる領域に伝播しているものと言えます。その例に漏れず、現代の美術においても「ボーダーレス」を多用して、いまの表現の行き詰まりから自らを解放、進展させようと試みているように思えます。しかし、その導入は具体的な提示や分析よりも、表面的な新しさやプロセスのないゴールを伝えているに止まり、革新や努力といった印象の良い言葉のイメージを先行させようとする思惑を感じざるを得ません。
昨年開催しました「リアリティとの戯れ」展に続く第2弾となる当展では、現代の「ボーダーレス」思想の真っ只中で自らの表現の展開に挑む、表現手法が全く異なる20代から40代までの7名の作家をご紹介いたします。
彼らは母校などで学んだ専門領域や素材技法から、大きく越境したりその境界線を疑うことで得た世界観を在学中または卒業後に見い出し、それらを自らの表現 の主軸に置いて活動しています。作家としての活動を本格化させてからも、常に変化や流動性を作品を通じて積極的に提示し続けています。けれども、ただ 「ボーダーレス」を提示する安易な発想に止まっていません。彼らの表現には、明らかに各々のルーツに影響を受けた主題が作品の奥底に横たわっており、解釈次第では「ボーダー」に強く囚われているようにも見られます。まるで、両極の概念を不安定な天秤のバランスの中で常に調整しているかのようです。
社会的に本質が欠如していることを隠蔽するかのような「ボーダーレス」の多用の前に、まずどこに「ボーダー」があるのかを確かめる行為を、もっと私たちは意識的に取り組むべきです。自らのスタイルとそのルーツ、それらを明確に確かめた上で、自らの現在の立ち位置を知る。つまり、「ボーダーを知ることでボーダーレスを得る」意識を持って、この今の表現が掘り起こす新しさとは何かを追求していくべきではないかと思います。
「ボーダーレスのゆくえ」展 キュレーター 山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)
2013-03-15Konohana’s Eye #1 伊吹 拓 展「”ただなか” にいること」
・ttk開廊および伊吹拓展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介
Konohana’s Eye #1
伊吹 拓 展「”ただなか” にいること」
2013年3月15日(金)~5月5日(日)
開廊時間:12:00~19:00 休廊日:毎週月曜~水曜、3月21日(木)
会場:the three konohana
the three konohana 開廊パーティー/伊吹拓展 オープニングパーティー:
3月15日(金)17時~22時
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the three konohanaのオープニングは、関西を拠点に精力的に活動を続けている絵画作家、伊吹 拓(IBUKI Taku, b.1977)の個展を開催いたします。
近年の抽象絵画の動向には、従来の美術史の文脈の継承よりも、現代社会や日常の生活にある具体的な要素を取り入れて、再構成するものが目立っているように思えます。二次元上の造形という観点から、デジタルの概念が市民権を得たことによるレイヤー的な表現。個々人の精神の不安定さの蔓延が着想となっている超感覚的とされる表現。積極的な思考の放棄による単純な行為の反復・蓄積といったものが挙げられます。これらの背景には、従来まで絵画のアイデンティティであったはずの二次元としての画面や造形の概念が、副次的なものとして扱われるようになったことも要因としてあります。モダニズムが終焉して以降、あらためて絵画そのものの概念の行き詰まりを感じさせるとともに、それを再追究する余地はまだ残っていないだろうかという思いに駆られます。
伊吹は、自らの存在と内面の世界を深く洞察し、それらを発露させるための抽象絵画に、学生時代から一貫して取り組んでいます。なかでも、彼の特徴的な表現手法とされているものが、絵具による「積層」を通じて随所に発生する「垂れ」や「滲み」です。彼にとって筆や刷毛によるストロークと等価とするこれらの手法には、彼らしい感覚が横たわっています。それは「委ねる」ことです。
そこには、アメリカ抽象表現主義以来常に語られてきた、偶然性や自然的なものによる平面絵画内への関与を見ることができます。彼はこの他力としての要素を作品に積極的に取り入れ、更には自己にも接触させることによる流動的な変 化を強く意識しています。また、近年彼が取り組んでいる屋外での展示でも、日々の時間や天気における光の変化によって、常に同じ視覚認識で作品を鑑賞できない過酷な環境に作品を置きながら、伊吹は絵画そのものへ客観的なまなざしを投げ続けてきました。
当展は、これまでの伊吹の一貫した制作意 識から次の段階を強く示唆させる、新作のタブローのみで構成いたします。目に見えて力強さを帯びたストロークと色彩が画面上に刻み込まれ、これまでの調和感が強かった印象から、まるでその静寂を破るような画面が現れます。これまで「委ねる」という意識の下で自然に寄り添ってきた感覚から、積極的な行為とし ての「描く」ことへの渇望が強まったこと、それが彼の作品に変化をもたらしているように思います。画面上には主観対客観の単なる二項対立に留まらない、一 種の不均衡さが作品全体に漂っています。そんな複雑に入り組んだ両者の関係性が、画面上の情景に無数のバリエーションを生み出し、それらの中から彼は自らの手に委ねながら選び、掴み取っていく作業を積み重ねています。
感情という私的な概念はあくまでも画面の一部分に留まり、明確な行為としての筆致と色彩が、視覚的にも概念的にも画面上に明快なコントラストを生み出しています。それは絵画という概念の中に、客観性を備えた彼の主観の現れと考え ることができます。他力に依存する感情よりも自意識を強めた「描く」行為を通じて、絵画への客観的なまなざしを向けること。当展において伊吹は、これまでの作家活動の中で見い出したあらゆる要素を全て画面上に撒き散らし、自らの絵画を構成する物事や概念、価値観、それらの境界線などの、まさに「ただなか」 に我が身を置くことになるでしょう。
弊廊のオープニング展は、あえて絵画そのものの概念や本質についてじっくりと考える機会になればと思います。ぜひご高覧賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
《midst》油彩、綿布 162 x 162 cm 2013 【当展出品作品】