2014

2014-11-01
Konohana’s Eye #6 小松原 智史 展 「エノマノコノマノエ」

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・小松原 智史 展「エノマノコノマノエ」 展示風景

・小松原 智史 展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介

 

Konohana’s Eye #6
小松原 智史 展「エノマノコノマノエ」
2014年11月1日(土)~12月21日(日)

開廊時間:木曜~日曜 12:00~19:00
休廊日:毎週月曜~水曜、11月6日(木)~9日(日)
会場:the three konohana

オープニングパーティー:11月1日(土)18:00~21:00

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このたびthe three konohanaでは、小松原 智史(KOMATSUBARA Satoshi, b.1989)の国内での初個展を、Konohana’s Eyeシリーズの第6弾として開催いたします。

小松原は、大阪芸術大学大学院在籍中の2013年に、「第16回岡本太郎現代芸術賞展」で特別賞を受賞し、展示会場で約2か月の会期を通じて公開制作を継続的におこなったパフォーマンスと、その力強い展示が印象に残っている方も多いかと思います。学生時代より彼は、「イメージの増殖による無意味性の提示」を主題に、主に墨を用いた絵画表現に取り組んできました。

小松原が大きな画面や壁面に次々と描いていく具体的なモチーフに、特に意味や脈略はありません。彼の頭の中から自然と湧き上がった個々のモチーフとそのイメージは、平面または空間を埋め尽くしていく過程の中で混ざり合い、個々のかたちや輪郭、さらにメッセージや感情も共にノイズ化され、最後には無意味へと行きつかせるアプローチの下に制作しています。
彼が主張する無意味性の問題は、最近の表現の潮流に見られる意味性の一方的な放棄に留まるものではありません。意味が失われた世界や空間が提示されることにより、人間には再び意味を求めようとする習性があります。なぜなら人間は、常に自らの存在意義を追い求める生きものであること。彼は、モチーフが増殖しイメージが無意味となった画面に、新たに意味性を感じさせる具体的なモチーフを描き加えます。けれども、次のモチーフを描くことで直前のモチーフは、即座に無意味の概念に吸収されていきます。意味から逃げ続けながらも新たに意味あるものを創出する行為の反復を通じて、彼は意味と無意味の世界を堂々巡りすることに執着しています。
また、彼が毎回展開させている、空間性を意識したダイナミックな表現も、その両者の世界を考察するアプローチとして重要なものです。私たちの視界を彼が描き重ねる過剰なモチーフとイメージで覆い尽くすことにより、個々の意味を求めることを諦めさせるだけではなく、現代における無意味性が情報の氾濫によって生じているという現実にも気づかせてくれることでしょう。この情報過多による無意味性をはらんだ環境は、現代社会においてほぼ避けることはできません。無意味性の壁が立ちはだかることによる思考停止が許される環境に身を任せることも、現代を生きる上では必要不可欠な選択であり、リセットされた現状からいかに次の価値を作り出すべきかを考えることの必要性を、これらのアプローチを通じて彼は訴えているのだと思います。

本展は、小松原の国内での初個展として、恐らく大多数の方々にとって彼の表現の本質を初めて総体的に捉えることのできる機会になります。これまでグループ展や公募展、地域での芸術祭に多数参加してきた彼ですが、自らの主題を鑑賞者により明確に体感していただくために、彼の制作中の身体の一挙一動も展示の一要素となる公開制作を毎回実施してきました。しかし本展では、これまでの発表スタイルから一変し、純粋に彼が描き終えた平面作品のみで展示を構成いたします。

作品として成立している個々の画面とそれらの集合体によって構成される展示空間から、モチーフとイメージが増殖する過程で、個々そして全ての意味が有と無の双方の概念を行き来する世界観を、みなさまにより主体性を持って感じ取っていただく機会になればと思います。ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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写真:《コマノエ》[部分] 墨・石膏・パネル 162.0 x 130.3 cm 2014 【当展出品作品】

 

 

 

2014-09-05
Konohana’s Eye #5 NO ARCHITECTS 「NO SHOP」

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・NO ARCHITECTS 「NO SHOP」 展示風景

・NO ARCHITECTS 展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介

 

Konohana’s Eye #5
NO ARCHITECTS 「NO SHOP」

2014年9月5日(金)~10月19日(日)

開廊時間:木曜~日曜 12:00~19:00
休廊日:毎週月曜~水曜
会場:the three konohana

オープニングパーティー:9月5日(金)18:00~21:00

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コラボレーター:sonihouse、後藤 哲也、権田 直博、ツクリバナシ、ヌケメ、蓮沼 執太、辺口 芳典、poRiff、メガネヤ、山内 庸資、RAD ほか
制作協力: 大川 輝、宮下 昌久、米子 匡司

※ 会期中に関連イベントの開催を複数予定しております。内容および開催日時は、決まり次第HP等でお知らせいたします。

※ NO ARCHITECTS 『NO BOOK』の出版および販売については、こちらをご覧ください。

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このたびthe three konohanaでは、NO ARCHITECTSの現代美術ギャラリーでの初個展を、Konohana’s Eyeシリーズの第5弾として開催いたします。

NO ARCHITECTSは、神戸芸術工科大学で建築を専攻した西山 広志(NISHIYAMA Hiroshi, b.1983)と奥平 桂子(OKUDAIRA Keiko, b.1983)の同級生2名による建築家ユニットです。彼らは、弊廊が位置する此花区梅香・四貫島エリアのまちづくりの活動にも関わり、当エリアの古い建物のリノベーションを数多く手がけています。彼らの仕事は建物のリノベーションの設計・施工のみならず、デザインからインスタレーション、ワークショップ、アーティストの展覧会や企業の展示会の空間構成など、建築の領域のみに留まらない幅広い活動を展開しています。

彼らのユニット名「NO ARCHITECTS」が示す通り、建物を一から全て手がけるプロセスよりも、建築の周辺およびそれを構成する要素に彼らの関心は一貫して向いています。従来からその土地にある雰囲気や意味、そして建物を使う人々の身の丈や考え方、そうしたものをいかに日常の生活の中に反映させるか。そして人間の活動単位でもある「空間」という概念を、分解と再構築を重ねながらいかに私たちのそばに近づけるか。建築の権威的な要素を求めることなく、現代の人々にとって自然な建築のあり方を、彼らは実用面と哲学面の両輪で追究し続けています。

本展では、NO ARCHITECTSがこれまで共に仕事をしてきた画家、家具職人、音楽家、ファッションデザイナーなど、さまざまなジャンルの人々とコラボレーションして制作したプロダクトを、自ら設計を手掛けた弊廊の展示空間にて展開し、期間限定の仮設の店舗「NO SHOP」と見立てた内容といたします。生活に寄り添うことをコンセプトに、それぞれの共働者と議論を重ねてさまざまな視点からの生活への提案が詰まったプロダクトが、彼らの統一感のある空間構成にて独自の店舗として作り上げていきます。また、会期中にはNO ARCHITECTSのこれまでの仕事をまとめたカタログを出版し、さらには10月18日と19日に開催する毎年恒例のまちなかイベント「見っけ!このはな2014」とも連動して、此花エリアをアーカイブすることをコンセプトとした各種企画なども開催いたします。

本来建築は、西洋では中世の教会建築に代表されるように、総合芸術の中心に位置づけられていました。また、「衣食住」の言葉からも、住まいとしての建築は、日常の生活においても必要不可欠な三大要素の一つでもあります。NO ARCHITECTSの建築をベースとした広い視界の中心には、あらゆるものを作り上げかつそれらを使用する人間の存在があると思います。本展は展示と関連イベント共に盛りだくさんな内容となっていますが、様々な立場の人間が多くかかわることによって、たくさんの日常の発見と創造が生まれていきます。それらが建築という中心軸が持つ強い求心力に引き込まれていく日常のダイナミズムを、彼らの気取らなく楽しさにあふれたアプローチを通じて体感していただきたいと思います。ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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《大辻の家》 (改修/大阪) 2013

 

2014-06-06
Konohana’s Eye #4 小出 麻代 展「空のうえ 水のした 七色のはじまり」

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・小出 麻代 展「空のうえ 水のした 七色のはじまり」 展示風景

・小出 麻代 展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介

 

 

Konohana’s Eye #4
小出 麻代 展「空のうえ 水のした 七色のはじまり」

2014年6月6日(金)~7月20日(日)

開廊時間:木曜~日曜 12:00~19:00
休廊日:毎週月曜~水曜
会場:the three konohana

オープニングパーティー:6月6日(金)18:00~21:00

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このたびthe three konohanaでは、小出 麻代(KOIDE Mayo, b.1983)の個展を、Konohana’s Eyeシリーズの通算第4弾として開催いたします。

大学で版画を専攻していた小出は、当初は版画の技法とさまざまな日常品を取り入れた平面や立体の作品を制作していました。とりわけ日常にありふれた既製品への関心が強く、「もの」の固定概念に新たなエッセンスを加味するために、版画の技法を中心に手仕事の要素を既製品に織り込むことを意識した作品が多数見られました。日常のささやかな改変を、個々の完結した作品内で提示するスタイルが、彼女の作家活動の始点にありました。

近年から現在にかけては、小出の表現スタイルはインスタレーションが主軸となっていきます。一昨年の神戸アートビレッジセンター(KAVC)での2人展「1floor / TTYTT, -to tell you the truth,-」では、意識的に手仕事を蓄積させるアプローチに大きな変化が現れました。これまで主だった版画技法での素材へのアレンジがやや影をひそめ、物体を紐で結んだり通したりする単純な行為や、何も手を加えない既製品を空間に設置することが目立つようになりました。権威的な行為といえる美術表現と、日々の生活でなにげなくおこなわれる行為。これら両極の要素を隔てなく調和させていく一定の方向性と距離感が、彼女の中で見いだされた機会になりました。

さらに、昨年のLABORARORY(京都)での個展「すいこみ はきだし ひろがる」では、小出のインスタレーションは前年のKAVCでの展示と比べてより平坦になり、かつ客観性の強さが際立つものとなりました。空間の各所に点在する既製品の物体や従来から見られる版画技法が絡んだ作品的な物体を、ただ淡々と紐や紙テープや電気コードでつなげた空間に仕上げました。まるで、薄いオブラートのような私的な物語性が、空間全体を起伏なく覆っているかのような世界観が展開されました。軽やかかつ柔い素材感と個々の要素がつながれていく行為は、作品としての強固な独立性を拒否していながら、一方では物質という属性を総体的に強調しているようにも感じられました。概念や権威の前に、人の感覚に触れる「もの」の存在を彼女は強く意識します。「もの」があることによって得られる安心感や充実感は、現代の日常の生活においても多くの人々が無意識に享受するものです。そこに対極ともいえる彼女の版画技法などによる美術表現的な「もの」と「行為」がどのように作用するのか、ここ数年彼女が追い求め続けたテーマのように思います。

当展は、ここ数年の小出の表現テーマである、美術表現と日常の行為との関係性をさらに深化させ、弊廊のホワイトキューブと和室の2つの空間の特性を限りなく駆使したインスタレーションにて展開いたします。弊廊の大きな特徴でもある自然光が大きく影響する展示空間による作用が、客観的に提示される「もの」と「行為」との間に、無数の変化と要素の存在を示唆させる内容となります。

現代に生きる私たちは、多数の情報とものが氾濫した世界全体を把握することは不可能であり、無数の小さな世界に気づかないまま日々の生活を送っています。しかし、私たちの意識の外に散らばっている小さな世界は、想像と思考という行為によって誰もが易しくアプローチできるものです。それらに気づくことによって得られる日常の拡大とその充実感は、大きな世界の一義的な価値基準にとらわれない各自の小さなルールを獲得することへとつながります。私たちの日常と世界観を大きく左右するかもしれない何気ないものが何気ないところに存在している、そのような発見を小出がフラットに手を加えた空間から見つけ出していただければと思います。ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、よろしくお願いいたします。

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《THE FEATURES OF THISLAND》 ミクストメディア(インスタレーション)  Artfunkl (マンチェスター・イギリス) 2013

 

 

2014-03-28
Konohana’s Eye #3 鮫島 ゆい 展「中空の雲をつかむように」

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・鮫島 ゆい 展「中空の雲をつかむように」 展示風景

・鮫島 ゆい 展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介

 

 

Konohana’s Eye #3
鮫島 ゆい 展「中空の雲をつかむように」

2014年3月28日(金)~5月11日(日)

開廊時間:木曜~日曜 12:00~19:00
休廊日:毎週月曜~水曜
会場:the three konohana

オープニングパーティー:3月28日(金)18:00~21:00

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このたびthe three konohanaでは、鮫島 ゆい(SAMEJIMA Yui, b.1988)の個展を、今年2014年のKonohana’s Eyeの第一弾として開催いたします。

学生時代から精力的に発表活動をおこない、地元関西のみならず関東など各地で発表を重ねる鮫島は、現在は絵画による表現を軸に制作を続けています。彼女は京都精華大学で版画を専攻していましたが、当初から版画による単一画面の作品よりも、コラージュの形式による多様な素材を使った表現をおこなっていました。 作品に技術や制作の過程を忠実に落とし込むことのできる版画よりも、操作の域を超えるものや人間の心理や感覚にあるノイズなど、予想外の結果をもたらす余地のある表現に、彼女の関心は向いていたように思います。そのため、学生時代の後半から絵画的表現に移行してからも、キャンバスやパネルの画面に違和感のある素材をコラージュする手法を継続しながら、自らの手や意識の及ぶ範囲とそれを超えていく境界線を確かめるような作品が随所に見られました。

近年から現在にかけては明確なコラージュの表現は影を潜め、純粋な絵画表現が中心となりますが、それでもアクリル絵具による同一画面上に相反するかたちや質感を描くことを続けていきます。鮫島は自らのステートメントで「ホムンクルス」という表現を多用します。錬金術師が人造人間を作るルネサンス期の説話に則って、不完全でありながら生命体を思わせるようなかたちを、複数の要素からなる構成によって画面上に描き出すイメージを持ち続けています。理性的に構成された明確なかたちと、身体感覚に拠った不明確なかたち。これらの対照的な要素を、有機性と客観性を両立させながら単一の画面に収斂させていくことが、彼女の現在の絵画に向き合う主題および態度となっています。彼女なりのコラージュの純化と言えるでしょう。

 

当展は、これまでの鮫島の作風の変化と展開に一貫してきた、意識と感覚を発生の源とし両極の理想的な構成へと進める、自らの造形表現の原点を再考することを主題とします。 現在の彼女の主たる表現である絵画作品では、彼女のコラージュの概念に残されていた素材感や感情的なものをさらに強く排除し、彼女の二極化されたかたちとその構成を純粋な絵画のフォーマットに落とし込むことを強く意識づける内容となります。本来の芸術表現に必要とされる現実と架空の2つの要素を冷静に並列 させつつ、双方の強弱による構成の多様性を提示することにより、人間の視覚と想像の接触による別次元のかたちの世界を私たちに意識させていきます。

加えて、彼女の造形のルーツを更に追究するための重要なアプローチとして、昨年のトーキョーワンダーサイト本郷(東京)の個展でも発表した、異素材を組み合わせた立体作品の新作も展開します。彼女が学生時代から手がけていたコラージュに原点回帰する表現と位置づけ、実体のある物質や質感から不確かなイメージを導き出す過程を提示するものです。現実感の強い三次元による造形では、一方でかたちの認識が人間の視覚に頼らざるを得ないという事実にも直面します。自ら操作可能な世界として位置づけられる絵画表現の前段階にある、現実との向き合い方とその解体の過程を、彼女の立体作品を通じて認識していただければと思います。

当展のタイトル「中空の雲をつかむように」は、実体や境界が不明瞭な空間の中に明確なかたちのないものを見いだしていくという意味です。雲のように有機的かつ生命感のあるかたちを見つけ出そうとしながらも、感情や表情がなくかつ実体の有無を捉えきれないかたちを同時に拾い上げていく、自らの表現に向き合う鮫島の姿勢を表しています。視覚と認識で構成される現実界の存在を前提としながらも、私たちの思考や感情が混在した世界には、数多くの曖昧な意味やかたちが各所に散らばっています。これらの確かさと不確かさを鎖で繋げる行為に、私たち個々の小さな世界を把握するためのひとつの答えが潜んでいるように思います。この機会にぜひご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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《形影の家》 アクリル、キャンバス 65.2 x 65.2 cm 2014 [当展出品作品]

 

 

2014-01-11
Director’s Eye #2 野口 卓海  「まよわないために -not to stray-」

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・『続・まよわないために -continuation of ”not to stray”- 』  text: 野口 卓海

・「まよわないために」を振り返って

・「まよわないために -not to stray-」 展示風景

・「まよわないために」展に関する、掲載プレビュー・レビューのご紹介

 

Director’s Eye #2 野口 卓海
「まよわないために -not to stray-」

2014年1月11日(土)〜3月2日(日)

開廊時間:毎週木曜〜日曜 12:00〜19:00

休廊日:毎週月曜〜水曜、1月19日(日)~26日(日)
会場:the three konohana

展覧会ディレクター:野口 卓海
出品作家:國政 聡志田中 秀介乃村 拓郎三木 祐子+金崎 亮太
デザイン:前田 大介

オープニングパーティー:1月11日(土)18時〜21時
トークショー:2月8日(土)18時〜19時

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the three konohana 2年目の最初を飾る展覧会は、Director’s eyeの第2弾となります。関西を拠点に展覧会やイベント企画、そして美術評論をおこなう、野口 卓海(Takumi Noguchi, b.1983)の企画によるグループ展「まよわないために -not to stray-」を開催いたします。

野口は、アート全般の企画を金崎 亮太と共に実施するユニット「Yoha Public」を結成し、関西の百貨店での展覧会や演奏会を多数開催してきました。また、個人の活動として、同世代の作家を中心に作家評論なども執筆しています。

今回野口にとっては、ギャラリースペースでの展覧会は初めてのディレクションとなります。同世代の80年代生まれの作家4組による構成のグループ展を通じて、世代に共通する価値観を提示することを目的としています。

Director’s Eyeの本来の目的は、展覧会を企画する専任ディレクターの育成とその役割の必要性を強調することです。自ら提示した主題を明確に反映させる展示を実現し、それを改めて深く言語化していくことを実践する場になればと思います。

国内における80年代生まれの人々は、感受性の強い子供の頃にオウムのサリン事件や酒鬼薔薇事件などセンセーショナルな出来事を目の当たりにして、独特の物事の解釈が随所に見られる世代だと認識しています。同世代のディレクターによる同世代の作家へのディレクションを通じて、その世代の典型的な価値観を明確に提示してくれることを期待しています。

the three konohana  山中 俊広

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【当展趣旨】

本展覧会は、そのタイトルが指し示す通り「まよわないために」企画されました。美術のみに関わらず、いわゆる“現代”を取り巻く目まぐるしい状況の只中で、私たちはそれぞれに戸惑い、断続的なつまづきに辟易しながら、にも関わらず“どこか”を目指し続けています。まるで幻想のような“単一の目的地”の存在を、未だに私たちは妄信しているのかもしれません。しかし、大いなる“目的地”が明らかに失われた現代で、私たちはまずそれぞれの個人的な“現在地”についてこそ考えるべきではないか―いや、むしろ“現在地”についてのみ、私たちは互いに語りえるのではないか―本展覧会は、大体そのような出発点から歩き出しています。

今回取り上げる四組の作家は、主題・技法・媒体などそれぞれに全く異なります。が、彼らには共通して或る強度―つまり、“現在地”と“その道程”への強いつながりが感じられます。なぜ彼らがその表現へと至ったのか、論理的にも感覚的にも接近できる道筋がいくつも残されており、そしてその道を辿るような行為そのものが深く豊かな鑑賞と体験を生み出します。どこから・どのようにして“現在地”へとたどり着いたのか、時折立ち止まって確認し、その自らの道程をより深く見つめること。それは、現代美術の迷宮で「まよわないために」彼らが獲得した姿勢とも呼べるでしょう。そして、この姿勢にこそ、現代の若手作家における同時代性が立ち現れているのです。

当展ディレクター 野口 卓海